正社員給与1000万円とフリーランス売上1000万円は何が違うのか

こんにちは、けんご(@N30nnnn)です。

昨今ではフリーランスへの転身話、あるいは転身を後押しする広告などやたら目にする機会が多くなったと感じます。
また、それに伴って「正社員とフリーランスの稼ぎは違う。フリーランスは甘くない」といった意見も散見されます。

一方で、身の回りの人と話していても正社員自身のお金事情・フリーランスのお金事情・両者で何がどれほど違うのかを、ざっくりでも理解している人は少ないように思えます。
そのため、両者の課税と制度の違いをもとに、何がどれほど違うのか整理していきます。

はじめに

この記事の狙いは、「所得からどの様に税金・保険料が計算されるか」という構造を掴んでもらうことにあります。
これが掴めれば、正社員とフリーランスでどれほど違うか、税金・保険料を抑えるのに何をしたらいいか、見通しが良くなると思います。
そのため、構造に影響が無い範囲で要所要所で数字をどんぶり勘定している点がありますがご容赦ください。

細かい用語の説明は省きます。
気になったら調べてもらえたら幸いですし、Twitterで聞いてもらえたらお答えします。間違っていたらやさしく教えて下さい。

(2020年の税金・保険に基づいて計算しています)

目次

基本的な構造

この国の収入と手取りの関係は次の様になってます。

  • 所得 - 保険 - 税金 = 手取り
    • 所得
    • 保険 → 所得 × 率 (上限あり)
    • 税金 → { 所得 - 控除 } × 率 (控除 = 各人の身を置く環境に応じた減税)

この基本的な構造は、正社員とフリーランスで基本的に変わりません。
細部の率や最大値のみ変わります。
この構造を知っていることで、正社員とフリーランスのメリデメの理解が進みます。

所得に対する手取りの推移

正社員

正社員手残りと所得・社保・税金
正社員手残りと所得・社保・税金

正社員手残り(円) と 所得(円)
正社員手残り(円) と 所得(円)

フリーランス

フリーランス手残りと所得・国保・税金
フリーランス手残りと所得・国保・税金

フリーランス手残り(円) と 売上(円)
フリーランス手残り(円) と 売上(円)

推移図比較

この様に並べると、同じ1000万での手取りは正社員に対してフリーランスは圧倒的に少なく、 フリーランスの900万で、正社員の650万あたりで手取りがトントンになるくらいでしょうか。
やはり正社員に対してフリーランスは1.5倍くらいもらわないと手取りすらトントンになりません。

また、フリーランスの手取りを見ると1000万あたりでガクッと下がっています。
これは消費税の課税が影響していて、手取りが下がる大きな一員になっています。
もっとも、消費税ははじめの2年は課税されないため、ボーナスタイムと言えるでしょう。
また、微妙に1000万超える売上を建てるくらいなら、非課税範囲に留めておくのが賢明です。

逆に共通している点としては、双方保険料はあるところで頭打ちにになります。
特に、この頭打ちはフリーランスの方が低く、820万円で上限の102万が来ます。
一方、正社員の方は1360万円ほどで上限の155万円が来ます(厳密には、雇用保険の0.3%が乗りますが、誤差程度)
これは一見正社員のほうが負担が大きいように見えますが、正社員は厚生年金を払っている影響です。
後述しますがこれを払ってるおかげでフリーランスより年金が3倍超もらえるため、一概にデメリットではありません。
(ここでは40歳未満を想定し、介護保険料を除きました)

後にこのシミュレーションを行ったgoogle spreadsheetを載せておきます。

(気になる人向け) 1000万の比較の詳細

ここからは、所得・売上1000万円とした時の保険料・税金の計算を、計算式・数値と参照元とともに記載していきます。

正社員給与1000万の場合

所得

まずは所得。
これは、いわゆる「年収」「額面」と呼ばれる数字です。

給与収入 1000万

厳密に所得とは、後にひとまとめにした給与所得控除を差し引いた額です。構造把握を容易にするために、給与所得控除は所得控除とひとまとめにしました

保険料

次に保険料の算出。
保険料は給与明細で、社会保険料として引かれている数字です。

保険は加入している保険組合・県・年齢によって変わります。
東京はだいたい 課税所得*10%(全額) というのを聞いたので、ここではそれを元に計算します。
(参考: 協会けんぽ 9.87%, 関東IT 10.1%)(全額)
ちなみにこれは、正社員と雇い主企業で折半するため、実質率は半分になります。

また、40歳を超えるとここに介護保険料約2(全額)%が加算されます。

税名 備考
健康保険 (個人負担分5%) 50万 会社と折半
所得1000万 * 10% / 2
ただし上限83.4万
厚生年金 (個人負担分9.15%) 71.4万 会社と折半
所得1000万 * 18.3% / 2
ただし上限71.4万
雇用保険 (0.3%) 3万 会社0.6%,個人0.3%
所得1000万 * 0.3%
124.4万

税金

次に税金の算出。
給与明細で所得税・住民税として引かれている数字です。

所得控除

税金を計算する前に、所得から予め減税される所得控除を計算していきます。

配偶者や子供がいたら、ここの数値が大きくなって税金が減ります

控除名 備考
給与所得控除 195万 参考: 国税庁HP
基礎控除 48万 全国民共
社会保険料控除 124.4万 保険の項で決定した
社会保険料が差し引かれます
367.4万
課税所得

上記、所得から所得控除を差し引いた額が課税所得となります。
この課税所得に税率がかけられます。

課税所得: 1000万 - 367.4万 = 632.6万

各種税金
税名 備考
所得税 83.8万 課税所得632.6万 * 20% - 42.75万 (参考: freee)
復興特別所得税 1.8万 所得税 * 2.1%
住民税 63.8万 課税所得632.6万 * 10% + 5千
149.3万

手取り

上記、給与所得から税金・保険分を差し引いた金額が手取りとなります

1000万 - 124.4万 - 149.3万 = 726.3万

フリーランス売上1000万の場合

所得

フリーランスは経費という概念があります。
ここではざっくり20%を経費として使ったとして進めます。

売上 1000万 10% 税込
経費 200万
所得 800万

保険料

フリーランス国民健康保険国民年金に加入することになります。
国保は、上記所得を元に計算します。 また所属する自治体によって、若干利率が異なります。
参考: 2020年 自治体別国民健康保険料ランキング

東京はざっくり 9.5%+5万 なので、ここではそれを元に計算します。
さらに、40歳を超えるとここに介護分約2%が加算されます。

税名 備考
国民健康保険 77.9万 (所得800万 - 基礎控除33万) * 9.5% + 5万, 上限82万
国民年金 19.8万 16540円/月 固定
97.7万

税金

各種税金を計算していきます。
それぞれの税金がどの数字を元に計算されるかを備考欄に記載しています。

所得控除

所得に税率が乗じられる前に差し引かれる項目群
配偶者や子供がいたら、ここの数値が大きくなって税金が減ります

控除名 備考
基礎控除 48万 全国民共
社会保険料控除 97.7万 保険の項で決定した
社会保険料が差し引かれます
青色申告特別控除 65万
210.7万

※ 厳密には青色申告特別控除は所得控除ではありません

課税所得

上記、所得から所得控除を差し引いた額が課税所得となります。
この課税所得に税率がかけられます。

課税所得: 750万 - 210.7万 = 589.3万

各種税金
税名 備考
所得税 75.2万 課税所得589.3万 * 20% - 42.75万 (参考: freee)
復興特別所得税 1.6万 所得税 * 2.1%
住民税 59.4万 課税所得589.3万 * 10% + 5千
事業税 25.5万 (所得800万 - 控除290万) * 5%
消費税 45.5万 簡易課税制度 みなし仕入れ率50%
税込売上1000万 / 1.1 ≒ 税抜売上909万, 消費税分 91万
91万 * 50% = 45.5万
207.2万

手取り

上記、給与所得から税金・保険分を差し引いた金額が手取りとなります

所得800万 - 97.7万 - 207.2万 = 495.1万

手取り比較

正社員 フリーランス
手取り 726.3万 495.1万

上記の通り、正社員とフリーランスで同じ1000万でざっくり 1.5倍 手取りが異なります。
この辺が「フリーランスになるには、正社員時代の1.5倍は最低もらわないと釣り合わない」と言われる所以でしょう。

このシミュレーションを行うにあたり、些細なものですがgoogle spreadsheetを作成しました。
どんぶり勘定シートですが残しておきます。
コピーして、所得の数値を変えてみてください。

正社員/フリーランス手取りシミュレーション

比較まとめ

上記のように、正社員の額面給与に対して、フリーランスの売上は1.5倍は少なくとも稼がないとトントンにすらなりません。

また、正社員は厚生年金があり、フリーランス国民年金から 6.5万円/月 もらえるところを、正社員は 22万円/月 もらえます。
(参考:厚生労働省発表)
更に正社員は、育休中は厚生年金料を払わずとも上記の金額もらえる制度があったりします。

加えて、正社員は交通費支給や福利厚生で恩恵を得られたりして、実質的な手取りが上がることが多いです。
(ちなみに、住宅手当は多くの場合もらってる分に課税されるので、ありがたみはいまいちかも)

正社員は優遇が多いのです。

一方でフリーランスは経費が使えます。
経費にすることで所得が減り、保険料・税金共々さがります。
例えば家賃の一部を経費にしたり、 仕事に必要なPC・タブレット・家具・スマートフォンの購入費を経費にしたり、 仕事を獲得するための飲み会代・仕事を依頼する仲間を探す飲み会代を経費にしたりです。
家賃なんかはフリーランスをやっていようがなかろうが払いますから、実質何割引きかで借りられる状態になります。

また、フリーランスは契約に自由度が持てます。
昨今ではリモートワークも散見されますが、出勤形態・報酬形態など、契約相手と合意が取れればそれがすべてになります。
報酬に関して企業からしてみても、正社員は一度給与を決めると簡単に減額できないかつ簡単にクビが切れないですが、 フリーランスは契約更新しないことで簡単にクビが切れるため、 正社員より大きめの報酬を引き出しやすい力学があります。
もちろん、それによって生まれるクビの切られやすさ・負う責任の変化など厳しさもあります。

フリーランスは動くお金が大きいのです。

さいごに

今回のシミュレーションに、フリーランスの方には代表的な節税である小規模企業共済・経営セーフティ共済や法人成りを含めませんでした。
これらは「今 余分に払って税金を減らす+将来お金を手にする」様なもので今を比較しづらかったり、長年安定して行える節税じゃなかったりで検討に含めませんでした。
それらに関して、また別途書ければと思ってます。